歯学部 歯学科5年生 猿棒 元陽(さるぼう もとはる)さん
第82回日本癌学会学術総会で発表した内容をさらに発展させ、「口腔癌の進展におけるpartial-EMTの役割」についてまとめた論文を発表した猿棒さん。この論文は学部初の国際的識別子「DOI」付きで、学術誌『Scientific Reports』でも紹介されました。
猿棒さんが研究に関心をもつようになったのは口腔病理学を専門とする工藤保誠教授との出会いがきっかけです。「臨床もいいけど、研究も面白い」と熱く語る工藤教授に感化され、2年生の頃から研究にのめり込んでいったといいます。そんな猿棒さんのことを工藤教授は「いい意味で変人」と評します。猿棒さんがまとめた論文や学会発表についてお話を伺いました。
(2025年とくtalk冬号掲載)
---優れた皇冠比分网_皇冠体育投注-【长期稳定直播】をまとめた論文で発表されたと伺いました。
猿棒さん 昨年の第82回日本癌学会学術総会(2023月9日21日~9月23日 パシフィコ横浜にて開催)での話ですね。今年は福岡マリンメッセである日本分子生物学会(2024年11月27日~11月29日)ではまた違うテーマで出そうとは思っています。
---どんな研究をされたんでしょうか?
猿棒さん 説明が難しいんですが、口の中にできるがんがあるんですよ。そんなに多くはないのですが、頭頸部扁平上皮がんという、舌や歯茎、歯肉、咽頭など主に口の中にできるがんがあるのですが、口の中の粘膜にできるがんは、歯科で扱うんです。そのがんが浸潤、転移することがあって。
良性腫瘍、悪性腫瘍という言葉は聞いたことがあると思いますが、良性腫瘍は基本的に浸潤しないので、浸潤するのは悪性腫瘍と位置づけられています。悪性の場合、血管やリンパ管を伝って肺や肝臓、脳など他の臓器にがん細胞が入っていって、それぞれの臓器で腫瘍を作ることがあります。転移がきっかけで亡くなることもあるので、口腔がんは手術で切除するのが一般的です。手術の際、浸潤しているであろう領域まで、しっかりがんを取り除かないといけないので、大きく切除するのですが、そうなるとその後のQOLに影響しますよね?がんの浸潤を阻止するような治療や薬があれば、がん治療が一歩前進するんじゃないかと考えて、がんの浸潤、転移に関する研究に取り組んでいます。
---なるほど。
猿棒さん がんが浸潤するときに、部分的上皮間葉転換(パーシャルEMT)というのですが、がん細胞はこの部分的上皮間葉転換を起こして、浸潤をするという説が提唱されています。
部分的上皮間葉転換は、頭頸部扁平上皮がんにだけある上皮のがんで、上皮とは、皮膚も上皮細胞からできているんですけど、口の中も上皮細胞があるんです。口の中の粘膜にも上皮細胞からなる層があり、結合組織または間葉と言ったりするんですが、細胞が敷石状に密に詰まった状態になっています。間葉は細長いカタチの細胞で、細胞同士の隙間はコラーゲン繊維などで満たされています。これが正常な構造なのですが、上皮間葉転換とは、がんになると上皮のような細胞が、間葉の細胞のように細長く変形し、性質も間葉のような構成に変わると考えられていました。でも実は浸潤する上で重要なのは上皮の性質を捨てて、間葉の性質になる、この部分的な立ち位置にあるような細胞が、一番悪性度が高く、がんの進展に関わってる細胞なんじゃないかと言われてるんですよね。その部分的な上皮間葉転換(パーシャルEMT)を起こしているがん細胞について着目した研究なんです。
---上皮間葉転換(パーシャルEMT)によって変形中の細胞の悪性が高いと?
猿棒さん この話はちょっと難しいと思うんですが、部分的上皮間葉転換(パーシャルEMT)を起こしている細胞がいろんな遺伝子の発現に関わっていて、そうした遺伝子を発現してる中で一番発現率が高い遺伝子が「TGFBI」という遺伝子なんですが、このTGFBIがどのようにパーシャルEMTに関わっているのか???広くいえば、どのようにがんの浸潤や進展に関わっているのか、TGFBIに着目して口腔がんにおける役割を検討する研究を行いました。興味のある人は論文を見てもらえたらと思います。
---日本分子生物学会ではまた別の研究発表を?
猿棒さん そうですね。うちのラボは口腔がんと、もう1つ並走してユビキチンリガーゼという酵素に関わる研究も行っていて、2024年の第47回日本分子生物学会で「腸上皮幹細胞におけるRNF32ユビキチンリガーゼの役割」という論文を発表しました。
---そもそもこの研究室に入るきっかけは何だったんですか?
猿棒さん がんに興味があったこともあるんですけど、口腔病理学を専門とする工藤保誠教授の生化学の授業を受けたのがきっかけです。分からないところを質問しに行ったときに、「臨床を目指す人が多いけど、研究も面白い」と熱く話すのを聞いて、感化されて。学んだことを何かに残す意味でも「研究っていいかもな」って思ったんです。
---それは何年生の時ですか?
猿棒さん 1年生の頃から講義には出ていて、「面白い人だな」と思ってお話を聞いてましたね。蔵本キャンパスで歯科医学を学ぶようになると同時に、工藤教授の授業が増えてきて、質問に行くようになって、顔を覚えてもらえるようになった感じです。
--- その頃から研究もやってたんですか?
猿棒さん そうですね。2年生ぐらいの頃から研究ばっかりやってます。
--- 授業が終わってから研究室へ行くような感じですか?
猿棒さん 休憩時間とか授業の合間に進められる実験はやる、みたいな。例えばPCRは機械にセットして終わるまで1時間待ちとか、そういうことが結構あるんですよ。それなら休憩時間にパパッと試薬混ぜて準備して、授業を受けて、終わったら見に行って。そうやって有効的に時間を使うと結構いいですよね。でも今は臨床もあるのでラボまで戻ってくる時間がなくて。なのでそれができたのは2年生~4年生くらいまで。朝来て、ちょっと実験して、授業を受けて、その間にも実験を機械が進めてくれて、昼休憩にサンプル回収して???。遅いときは深夜1時とかまで実験していることもありましたね。
--- 論文はそうした日々の集大成でもありますね。
猿棒さん 研究や実験は苦にならないというか、むしろ楽しい方ですが、論文制作はさすがに心が折れそうになりました。自分の中では「ちゃんとまとまった」と思っていても、査読で「これでもか」っていうぐらいに叩かれるんですよ。見ず知らずの人から、ひどいことを書かれるっていう。「こんなに頑張っているのを知りもしないで!」って(笑)。すごい悔しかったり、辛かったりもしましたが、学部で国際的識別子「DOI」付きの論文を書いたのは初めてだと思います。
--- 学会発表も大変そうですが、それも楽しみなんでしょうか?
猿棒さん やっぱり学会発表することで同じような研究をしている人たちとか、有名な先生と出会えるのは刺激的ですよね。そういう人たちから意見をもらえることもあるし。一人で黙々と研究していると滅入ることもあるんですが、学会で同じようにがんばっている人と会うと、「自分も頑張ろう!」って、モチベーションが高まります。
--- 学会に行くのはそういうメリットがあるんですね。
猿棒さん 発表はしなくても年に1回くらいは学会に参加する方がいいと思います。大学の特別講義やセミナーで講演を聞く機会がありますが、講師は1人の場合が多いですよね?学会へ行くと有名な先生のセミナーや講演をいくつも聞けますし、「研究者ってこんな数、いるんだ!」っていう、そういうことを肌に感じるのも大事かなと思います。
--- 積極的に学会へ参加する人が増えるといいですね。お話しいただき、ありがとうございました!
★猿棒さんは2025年2月20日、論文業績が認められ、第74回康楽賞(財団法人康楽会様からのご好意により、本学教員でその研究に成果のあったもの及び本学の学生で学業優秀であるものに対し、賞状及び賞金が贈られるもの)を受賞しました!
https://yasusei6.wixsite.com/yasuseikudo/blank-1?lightbox=dataItem-m7d636og
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/38514830/
▲猿棒さんの論文はこちらから読むことができます。
徳島大学大学院医歯薬学研究部 口腔生命科学分野のサイト
https://yasusei6.wixsite.com/yasuseikudo